公益法人と「特別の利益」
公益法人(公益社団法人・公益財団法人)はその事業を行うに当たり、役員等あるいは株式会社等の営利事業を行う者に、「特別の利益」を与えることが禁止されます(公益法人認定法第5条第3号、同第4号)。これは、公益法人の運営実務上、何かと論点となる規制ですが、「特別の利益」という言葉だけでは具体的にどのような行為がそれに該当するのか、その判断に迷うことが少なくありません。
本稿では、「特別の利益」規制の条文、ガイドライン、その他参考となる資料をまとめておきたいと思います。
なお、一般法人(一般社団法人・一般財団法人)においても、一定の税制優遇を受けられる「非営利型法人」に該当するためには、特定の個人又は団体に「特別の利益」を与えないことが要件されています(法人税法施行令第3条第1項第3号、同条第2項第6号)。法人税法上の「特別の利益」の解釈と公益法人認定法における「特別の利益」の解釈は、基本的には同様のものであると考えられます。
関係法令
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)
(公益認定の基準)
第5条 行政庁は、前条の認定(以下「公益認定」という。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、当該法人について公益認定をするものとする。
一~二 略
三 その事業を行うに当たり、社員、評議員、理事、監事、使用人その他の政令で定める当該法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであること。
四 その事業を行うに当たり、株式会社その他の営利事業を営む者又は特定の個人若しくは団体の利益を図る活動を行うものとして政令で定める者に対し、寄附その他の特別の利益を与える行為を行わないものであること。ただし、公益法人に対し、当該公益法人が行う公益目的事業のために寄附その他の特別の利益を与える行為を行う場合は、この限りでない。
五 (以下略)
(公益認定の取消し)
第29条
1 (略)
2 行政庁は、公益法人が次のいずれかに該当するときは、その公益認定を取り消すことができる。
一 第5条各号に掲げる基準のいずれかに適合しなくなったとき。
二 (以下略)
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令(平成19年政令第276号)
(特別の利益を与えてはならない法人の関係者)
第1条 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「法」という。)第5条第3号の政令で定める法人の関係者は、次に掲げる者とする。
一 当該法人の理事、監事又は使用人
二 当該法人が一般社団法人である場合にあっては、その社員又は基金(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号。第6条において「一般社団・財団法人法」という。)第131条に規定する基金をいう。)の拠出者
三 当該法人が一般財団法人である場合にあっては、その設立者又は評議員
四 前3号に掲げる者の配偶者又は三親等内の親族
五 前各号に掲げる者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
六 前2号に掲げる者のほか、第1号から第3号までに掲げる者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持する者
七 第2号又は第3号に掲げる者が法人である場合にあっては、その法人が事業活動を支配する法人又はその法人の事業活動を支配する者として内閣府令で定めるもの
(特定の個人又は団体の利益を図る活動を行う者)
第2条 法第5条第4号の政令で定める特定の個人又は団体の利益を図る活動を行う者は、次に掲げる者とする。
一 株式会社その他の営利事業を営む者に対して寄附その他の特別の利益を与える活動(公益法人に対して当該公益法人が行う公益目的事業のために寄附その他の特別の利益を与えるものを除く。)を行う個人又は団体
二 社員その他の構成員又は会員若しくはこれに類するものとして内閣府令で定める者(以下この号において「社員等」という。)の相互の支援、交流、連絡その他の社員等に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的とする団体
ガイドライン等
「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)」(平成20年4月(平成31年3月改定)内閣府公益認定等委員会)
3.認定法第5条第3号、第4号関係<特別の利益>
認定法第5条第3号、第4号の「特別の利益」とは、利益を与える個人又は団体の選定や利益の規模が、事業の内容や実施方法等具体的事情に即し、社会通念に照らして合理性を欠く不相当な利益の供与その他の優遇がこれに当たり、申請時には、提出書類等から判断する。 なお、寄附を行うことが直ちに特別の利益に該当するものではない。また、「その事業を行うに当たり」とは、公益目的事業の実施に係る場合に限られない。認定後においては、確定的に利益が移転するに至らなくとも、そのおそれがあると認められる場合には報告徴収(認定法第27条第1項)を求めうる。(注・下線は筆者)
「公益法人制度等に関するよくある質問(FAQ)問Ⅳ-1-①」(令和3年3月版 内閣府)
公益法人の財産は、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与することを目的として、公益目的事業に使用されるべきものであり、公益法人から他の団体等に社会通念上不相当な利益が移転し、受入先において財産を営利事業や特定の者のために使用されることは適当ではありません。また、公益法人が寄附により受け入れた財産を社員、理事等の法人の関係者や営利事業を営む者等の特定の者の利益のために利用されることが認められると、公益法人に対する信頼が損なわれ、国民からの寄附の停滞を招くおそれもあります。このようなことを防止するため、法人の関係者や営利事業者等に特別の利益を与えないことが公益認定の基準として設けられています(公益法人認定法第5条第3号、第4号)。(注・下線は筆者)
「法人税法基本通達」1-1-8(国税庁)
(非営利型法人における特別の利益の意義)
令(注・法人税法施行令)第3条第1項第3号及び第2項第6号《非営利型法人の範囲》に規定する「特別の利益を与えること」とは、例えば、次に掲げるような経済的利益の供与又は金銭その他の資産の交付で、社会通念上不相当なものをいう。(平20年課法2-5「ニ」により追加)
⑴ 法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する土地、建物その他の資産を無償又は通常よりも低い賃貸料で貸し付けていること。
⑵ 法人が、特定の個人又は団体に対し、無利息又は通常よりも低い利率で金銭を貸し付けていること。
⑶ 法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する資産を無償又は通常よりも低い対価で譲渡していること。
⑷ 法人が、特定の個人又は団体から通常よりも高い賃借料により土地、建物その他の資産を賃借していること又は通常よりも高い利率により金銭を借り受けていること。
⑸ 法人が、特定の個人又は団体の所有する資産を通常よりも高い対価で譲り受けていること又は法人の事業の用に供すると認められない資産を取得していること。
⑹ 法人が、特定の個人に対し、過大な給与等を支給していること。 なお、「特別の利益を与えること」には、収益事業に限らず、収益事業以外の事業において行われる経済的利益の供与又は金銭その他の資産の交付が含まれることに留意する。
公益財団法人国際人材育成機構(アイム・ジャパン)の第三者委員会作成「調査報告書」15頁
「特別の利益」の意味については,「利益を与える個人又は団体の選定や利益の規模が,事業の内容や実施方法等具体的事情に即し,社会通念に照らして合理性を欠く不相当な利益の供与その他の優遇」とされ,「選定が合理性を欠く場合」あるいは「利益の規模が合理性を欠く場合」のいずれかに該当すれば「不相当な優遇」として「特別の利益」を与えたことになる(公益認定等ガイドラインⅠ・3)。そして,「選定が合理性を欠く場合」としては,選定プロセスが公正でないことなどが該当し,「利益の規模が合理性を欠く場合」としては個別判断であり明確な基準はなく,絶対的な金額がそれほど高くなくても,不相当な利益と見做されることもあり得るとされている(「公益認定の判断基準と実務」出口正之)。
(文責:梅本 寛人)