公益法人に必要な「経理的基礎」と「技術的能力」
最も重要な公益認定基準-「経理的基礎」と「技術的能力」
「公益法人」とは何でしょうか?法律では、公益法人とは「公益社団法人又は公益財団法人をいう。」とされ(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)第2条第4号)、公益社団法人とは「(認定法)第4条の認定を受けた一般社団法人をいう。」とされます(認定法第2条第1号)。同様に、公益財団法人とは「(認定法)第4条の認定を受けた一般財団法人」です(同法同条第2号)。
上記の「第4条の認定」とは、ご存じのとおり「公益認定」のことであり、要するに、公益認定を受けた一般法人がすなわち公益法人ということになりますが、この公益認定を受けるためには、認定法第5条に定める「公益認定基準」をすべて充たす必要があります。そして、公益法人は、公益認定を受けた後においても、この公益認定基準に適合し続ける必要があり、不適合の場合は、公益認定取消しの可能性があります(認定法29条2項1号)。
認定法第5条は、公益認定基準として、18項目の基準を掲げておりますが、この中で、特に重要といえる基準が、第2号の「経理的基礎」と「技術的能力」です(「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものであること。」)。
なぜ、この基準が重要なのか?もちろん、公益法人となるためには、そして、公益認定後も公益法人であり続けるためには、この要件のみならず、他のすべての公益認定基準をクリアする必要があり、その中には、有名な収支相償の基準(認定法第5条第6号)など、法人によってはクリアが困難な基準もあります。しかし、「経理的基礎」と「技術的能力」は、公益法人にとって、その存立のために必要不可欠な根本的基準といってよいものであり、これを欠く場合は、行政庁による勧告、場合によって公益認定取消しに直結する重大な結果をもたらしうるものなのです。
公益法人制度改革後、公益法人に対する監督のあり方は大きく変わりましたが、それでも、行政庁による勧告、又は公益認定取消しの例は何件か存在します。そして、勧告ないし取消事例において、行政庁が指摘している理由としておそらく最も多く挙げられているのが、この「経理的基礎」あるいは「技術的能力」の欠如という点なのです。詳しく調べた訳ではありませんが、例えば、前述の収支相償の基準に不適合で勧告等に至った事例は、まだ無いものと思われます。
「経理的基礎」と「技術的能力」の意義
もっとも、「経理的基礎」といい「技術的能力」といっても抽象的に過ぎ、何をどうすればこれらの要件を充たすのかは、条文とにらめっこしていても答えは出てきません。ただ、法律の世界では、こういう抽象的な要件を規定している例は結構多くあり、その解釈を巡って裁判で争われ、判例がその意味づけをしている例も多くあります。例えば、独占禁止法は、ある意味こういう抽象的要件のオンパレードであり、解釈を示した判例や公正取引委員会の審決例が極めて多く存在します。
しかしながら、認定法に関する最高裁の判例等はまだ皆無といってよく、当然のことながら、「経理的基礎」や「技術的能力」の解釈を示した判例もありません。となると、どうすればよいのか?なのですが、現時点で、これらの要件につき最も有力な(権威のある)解釈を示しているのが「公益認定等ガイドライン」(「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)」平成20年4月(平成25年1月改定)内閣府公益認定等委員会)であり、公益法人の実務上は、このガイドラインに従って上記の要件の意味を解釈し運用していくほかはありません。
広く使える「経理的基礎」と「技術的能力」
公益法人に限らず、会社にしろ団体にしろ、組織の運営にとって重要なのは、事業の適正な実施と経理すなわちお金の適正な管理です。その意味で、「経理的基礎」とか「技術的能力」というのは、組織一般に通じる要件であり、逆にいえば、公益法人を監督する行政庁としては、いわゆる”問題のある”公益法人に対して、これらの要件の欠如を”言いやすい”という側面があります。行政庁にとっては、ある意味使い勝手のよい公益認定基準といえ、そこには濫用の危険があるものともいえます(例えば、内閣府公益認定委員会は、平成28年2月26日に行った勧告事例において、「技術的能力」に関して「法令遵守は、公益目的事業を実施する上で当然に必要な能力であり」、法令に抵触する行為を行っている法人には「公益目的事業を行うのに必要な能力が確保されている」とはいえない、すなわち「技術的能力」がない、と言及している部分があります。これは「技術的能力」という要件に「法令遵守能力」の意味も込めて解釈しているとも評価できます。)。この点で、前記の公益認定等ガイドラインは、公益法人にとっては、抽象的な「経理的基礎」「技術的能力」についての具体的な意味を付与し、まさしく行動指針としての意味を現時点では持っていますが、逆に、行政庁に対しては、これら要件の不当な拡大解釈を防止するという意味も持っているものといえるでしょう。
(文責:梅本 寛人)