「評議員会」とは何か
評議員会とは?
最近、財団法人(特に公益財団法人)における「評議員会」(ひょうぎいんかい)という言葉がマスコミ誌上を賑わしております。「評議員会」という言葉からは、何かを「評議する会議」という印象をお持ちかもしれませんが、「評議員会」は、社団法人における「社員総会」、株式会社における「株主総会」と同様、財団法人における最高意思決定機関であることはご存じでしょうか。本コラムでは、この「評議員会」の存在理由、権限等について説明します。
評議員会の存在理由
評議員会は、すべての評議員により組織され(一般法人法178条1項)、役員(理事,監事等)の選任・解任、決算の承認、定款変更、合併の承認等、財団にとって重大な事項を決議する法人の意思決定機関です。このような権限の内容は、取締役会を設置している株式会社における株主総会や理事会を設置している社団法人における社員総会とほぼ同様です。
もっとも、財団法人において、このような評議員会が設置される理由は、株式会社における株主総会や社団法人における社員総会とは根本的に異なります。
そもそも、「財団」とは何でしょうか?「財団」とは、財産に法人格を与え,設立者(財産を拠出した人)が意図した目的のために財産が活用されることを目指した制度です(有名な財団としては,海外の例ですが,毎年ノーベル賞を贈っている「ノーベル財団」があります。ダイナマイトを発明し巨利を得たノーベル氏が、死後もその財産を世界的な研究等を顕彰するために使ってくれという目的で設立されたものです。)。他方、株式会社や社団法人は、それぞれ、株主や社員(会員)という人の集まりに法人格が認められた組織であり、この点が財団と大きく異なります。そして、株式会社や社団法人において、その構成員(株主、社員)が集まり、組織としての意思決定を行う場が、株主総会であったり社員総会であるのですが、財団においては、もとより、このような構成員がそもそも存在せず、構成員が集まる場としての「総会」も当然存在しません。
他方で、財団にも、株式会社や社団法人と同様、役員(理事、監事等)は存在します。株式会社や社団法人においては、役員は、株主総会や社員総会における意思決定にしたがって法人を運営していくことが求められますが、財団の場合は、役員は「設立者(財団設立時に財産を拠出した人)が意図した目的」にしたがって財産を活用し法人を運営していくことが求められます。なぜならば、それが財団の存在意義であるからです。
もっとも、いくら「設立者が意図した目的」にしたがうといっても、財団の運営を役員のみに任せきりにすることは、その時々の役員の都合のみで財団が恣意的に運営されたり、不適切な運営がなされる危険があります。そこで、一般法人法は、役員による法人運営が適切になされるようにし、かつ、役員を監督するために、「評議員」を置くことにし,すべての「評議員」によって組織される「評議員会」を置かなければならないとしたのです(一般法人法170条1項、178条1項)。
このように、財団法人における評議員ないし評議員会は、主として、役員による法人運営が適切になされているかを監督し、牽制する機関として、法律が敢えて設置した機関であるという点が、株式会社における株主総会や社団法人における社員総会と根本的に異なる点です。そして、この違いが端的に表れているのが、評議員も「善管注意義務」を負うという規定です(一般法人法172条1項・民法644条)。評議員は、上記のとおり、役員を監督する権限がありますが、それは同時に義務でもあり、適切な監督を行っていないときは善管注意義務違反に問われる可能性があるのです(具体的にいえば、適切な監督を怠り、その結果、法人に損害が発生した場合には、評議員は損害賠償責任を負うことになります。)。株式会社の株主が善管注意義務を負うというのは想像もつきませんが、株主と評議員の存在理由が根本的に異なるということに思いを致せば、評議員に善管注意義務が課されるという上記法人法の規定も理解できるかと思います。
評議員会の権限
評議員会は、上記のとおり、役員による法人運営が適切になされているかどうかを監督する機関です。この観点から、評議員会は、一般法人法に規定する事項及び各法人の定款に定められた事項について決議する権限があります(一般法人法178条2項)。具体的には、前記のとおり、役員の選任・解任、決算の承認や、定款変更、合併、事業譲渡の承認といった法人の存続に関する事項などです。昨今話題となった「理事の解任」は、このように評議員会の決議事項となっています。
評議員会は、このように財団法人において強力な権限を有する機関ですが、それもこれも、役員による法人運営が適切になされているかを監督し牽制するために認められた権限です。間違っても、役員側と癒着し役員側の決定を自動的に追認する機関であってはならず、監督権限を適切に行使することが求められます。そして、このように適切に監督権限を行使しなければ、個々の評議員の善管注意義務違反となって評議員自身の責任も問われ得るという一般法人法の制度内容を今一度確認していただければと思います。
(文責:梅本 寛人)