京橋・宝町法律事務所

一般社団・財団法人法の一部改正

一般法人法が会社法の改正に伴い一部改正され,その改正法が平成27年5月1日から施行されています。本コラムでは,この一般法人法の改正ポイントについてご説明いたします。

内閣府の公益法人information のサイトにおいても,改正ポイントをまとめたパンフレットが作成され掲載されております。そちらも併せてご参照ください(パンフレットはこちら)。

大きな改正ポイントは以下のとおりです。

「最低責任限度額」と「責任限定契約」

一般社団・財団法人(公益社団・財団法人も同様)の役員は,法人に対する任務を怠ったとき(典型的にはいわゆる「善管注意義務違反」の場合です),これにより法人に生じた損害を賠償する責任を負います(法人法111条1項,198条)。これは,今般の公益法人制度改革により「役員の責任」として明文化されたもので,皆様もご承知の点かと思います。

他方で,法は,一定の場合に,役員の責任を軽減できることも定めています。

責任を軽減する方法としては大きく分けて,

  • 社員総会(評議員会)決議による方法(法人法113条1項)
  • 理事会決議による方法(法人法114条1項)
  • 責任限定契約による方法(法人法115条1項)

があります。今回の法改正は,この役員の責任を軽減する方法に関しての改正です。

「最低責任限度額」とは?

「最低責任限度額」というのは,上記のとおり役員が法人に対して損害賠償責任を負うこととなった場合に,社員総会(評議員会)決議等によっても免除することができない最低限度の責任額のことをいいます。

この「最低責任限度額」の決め方について,従来の法人法では,代表理事以外の理事について,その理事が「外部理事」であるかどうかにより,額に差がありました。

しかし,改正法では,「外部理事」の概念を廃止し,現に業務執行理事である者,あるいは,使用人兼務理事(例:「専務理事・事務局長」など)である者については重くし,それ以外は軽くする,としました。要するに,執行理事や使用人兼務理事の方は今まで通りの最低責任限度額(具体的には法人から受ける年間報酬等の額の4倍),平理事(業務執行権のない理事)の方は,より少ない最低責任限度額(具体的には法人から受ける年間報酬等の額の2倍)となりました。

なお,役員のうち,代表理事,監事,会計監査人については「最低責任限度額」に関して従来と変更はありません(代表理事は年間報酬等の6倍,監事等は2倍)。

ちなみに,役員の報酬が無報酬という団体様も多いかと思いますが,この場合は,最低責任限度額はゼロとなりますから,社員総会等の決議により,損害賠償額を全額免除(ゼロにする)にすることもできます。

「責任限定契約」とは?

「責任限定契約」とは,一定の要件を充たす法人の役員が損害賠償責任を限定することを内容として法人と締結する契約のことです。このような契約を結ぶためには,契約が締結できることを定款で予め定めておくことが必要です(法人法115条1項)。

この「責任限定契約」は,従来の法人法では,「外部役員等」のみが締結できるとされていました。しかし,改正法は,「外部役員等」の概念を廃止し,責任限定契約は「非業務執行理事等」が締結できるとしました。「非業務執行理事等」というのは,現在,代表理事,業務執行理事,使用人兼務理事ではない人という意味で,逆に言いますと,いわゆる平理事(現に業務執行を行っていない理事),すべての監事,会計監査人は,責任限定契約を締結できることとなります。

なお,現在,定款で「外部役員」と責任限定契約を締結できるとの規定を置いていらっしゃる団体様も多いかと思います。法律上「外部役員」の概念が廃止されたとしても,直ちにこの定款規定が無効になり,定款変更をする必要がある(=臨時総会を開く必要がある)というわけではありません。

もっとも,新たに法改正により締結が可能となった方(=過去に執行理事だったが現在は平理事の方など)と責任限定契約を締結したい,という場合は,定款変更が必要となりますので,ご留意下さい。

「業務執行」の意味

「業務執行」とは,「法人に関するあらゆる事務につき,実施すること」という意味ではなく,法人の目的たる事業に関しての諸般の事務(法人の目的を実現するため,その行う事業の具体的な内容や運営方法を検討して,これを決定するとともに,事務局職員の管理を行うなど)を実施すること,という意味です。事業計画や予算等の策定,経理関係の事務,対外的に契約等を締結すること,職員の労務管理といったイメージでしょうか。例えば,法人内部の委員会において委員長として委員会活動に関する事務を行う,という仕事は,委員会内部の事務にとどまる限りは法人の「業務執行」とは言えないと思います。これは,ケースバイケースの判断とはなりますが。

理事会決議による責任免除の方法

理事会決議による責任免除を行うためには,法律上の要件をみたすこと,理事会決議により免除が可能であることを予め定款で定めておくこと,が必要となりますので,ご注意ください。

まとめ

ということで,

  • 代表理事以外の理事さんの場合に,最低責任限度額が今までよりも減少されるケース(今までは「外部理事」に該当しなかったが,現に業務執行理事や使用人兼務理事でないという方がこれに該当します)が生まれる
  • 責任限定契約が締結できる人も一部拡大される

というのが今回の法改正のポイントです。

会計監査人の選任方法

会計監査人の選定・解任等について,従来の法人法では,理事が議案を社員総会(評議員会)に提出する場合等において,監事の同意が必要とされていました(法人法73条)。

しかし,改正法は,選定・解任等の議案の内容の決定そのものを監事の権限としました。

今後は,監事が主導して会計監査人としてふさわしい方(公認会計士か監査法人)を決定し,それを受けて理事が社員総会(評議員会)に議案を提出するという方法になります。

その他の改正点

以上の他にも,細かい点で法人法の改正が行われていますが,詳細については,前記の内閣府パンフレット等をご参照ください。

なお,本コラムに関連し,定款の整備や責任限定契約の締結等に関してご相談になりたい方は,ご遠慮なく当事務所までお問い合わせください(こちらのページもご覧下さい)。

(2016.12.11 一部改訂)

(文責:梅本 寛人

03-6272-6918