マンション管理組合におけるWeb総会の実施
コロナ禍でのマンション管理組合の運営において、理事会あるいは管理会社の皆様の頭を悩ませているのが、総会を会場で実施し組合員の皆様に会場にご参集いただくべきかどうか(いわゆる「リアル総会」の実施)という問題ではないでしょうか。
私が出席している多くのマンション管理組合の理事会においても、理事の皆様は、ここ2年ほどの新型コロナウイルス感染症の拡大という状況を踏まえ、総会開催時期を大幅に遅らせたり、会場を設けて総会を開催するものの組合員の皆様の出席を極力避け、委任状や議決権行使書を提出するように要請する文書を総会資料に添付するなど、コロナ禍での総会の運営に苦労されておられます。
本ニューズレターでは、コロナ禍における総会の実施方法について説明したいと思います。
コロナ禍における総会の実施方法
新型コロナウイルス感染症の感染予防のため、多人数が集まる総会への出席を避けたいと思われる組合員の方もいらっしゃると思います。他方で、マンション管理組合は組合員全員で構成され、組合員全員に総会への出席の機会が与えられる必要があります。
そこで、感染予防のためにいわゆる「三密」を回避しつつ、総会を実施する方策として提唱されているのがZoom、Microsoft TeamsなどのWeb会議システムを利用した方法による総会いわゆるWeb総会です。
Web総会は、すでに株主総会などにおいても同様の問題意識のもとで検討・実施されているものであり、マンション管理組合の総会においても実施が可能であると考えられるため、以下にその制度の概要を説明します。
マンション管理組合における総会は、物理的に存在する会場を設け、そこに組合員が参集して行われるのが通常です(このような通常の形式での総会を「リアル総会」などと呼びます)。
もっとも、コロナ禍において急速に普及したWeb会議システムを活用することで、物理的な会場を設けないで総会を開催する、あるいは、物理的な会場を設けつつWeb会議システムによって会場へのアクセスも講じ総会を開催する(このようなWeb会議システムを活用した総会を「バーチャル総会」などと呼びます)、という形態が見られるようになりました。
バーチャル総会は、さらに、以下のように分類することができます。
① ハイブリッド型バーチャル総会(参加型)
② ハイブリッド型バーチャル総会(出席型)
③ バーチャルオンリー型総会
①②は、物理的な会場を設けて総会を開催しつつ、その会場に参集していない組合員がWeb会議システムを利用することで会場以外の場所から総会に参加・出席することを認める方式です。①と②の大きな違いは、①では、Web会議システムでの参加者は、総会に法律上「出席」したとは取り扱われないため、その場で議決権を行使することができず事前に委任状または議決権行使書を提出しておく必要があり当日のWeb会議システムでの参加は単に総会を傍聴している状態に過ぎないのに対し、②では、Web会議システムでの出席者も総会に法律上「出席」したものと取り扱われ、その場で議決権を行使でき発言の機会も与えられるという点です。
③は物理的な会場を設けず、全ての組合員(議長や議事録署名人を含みます。)がWeb会議システムを用いて総会に出席する方式です。
マンション管理組合において実施が可能・容易なWeb総会
上述の様々なバーチャル総会の開催方式のうち、③は、物理的に存在する総会を設けない形となるため、現行法上その実施は困難となります。
②については、実施は可能ですが、Web総会出席者の本人確認の煩雑性、途中退席者への対応、Web総会での議決権行使・議決権行使状況の把握のためのシステムの導入、通信障害発生の場合に対応が困難などの問題があります。そのため、本格的なWeb会議システムの構築やこれらのIT技術活用に慣れた総会運営者(管理組合理事や管理会社フロントマン)の関与がなされない限り、特に小規模な管理組合においてはその実施は容易ではないと思われます。
ということで、管理組合や管理会社において現実的に実施が可能であり、かつ、容易なのは、①ハイブリッド型バーチャル総会(参加型)であり、現時点ではこの方法が最もお薦めできると私は考えています。
マンション管理組合におけるWeb総会のメリット
ハイブリッド型バーチャル総会(参加型)には、以下のメリットがあります。
これまでの集計方法を踏襲できるというメリット
この方式の特徴は、Web会議システムにより総会に参加する組合員は、単にWeb会議システムを通じて総会の様子を傍聴しているに過ぎないという点であり、そのため、当該組合員は、総会を欠席する組合員と同様に事前に委任状または議決権行使書を提出して議案への賛否の意思を表示する必要があります。
その結果、総会議案について定足数や決議結果を集計する際、総会会場での投票状況以外には委任状または議決権行使書の行使状況を踏まえるだけでこれを行うことができます(Web上での投票状況を集計に加える必要がありません)。
この方法は、これまで多くの管理組合の総会で行われてきたものと同様であり、慣れ親しんだ集計作業であるため、現場での作業に混乱が生じにくいというメリットがあります。
時間的・場所的な制限を超えるというメリット
コロナ禍での「三密」回避に資することはもちろんのこと、それ以外にも、マンション管理組合の総会実施日に別の予定があるとか、投資目的でマンションを区分所有しているため総会会場からは遠方に居住しているといった理由で、総会会場には参集できないが、総会における議論の内容だけは確認したいという意向を持つ組合員にとって、ハイブリッド型バーチャル総会(参加型)は極めて利便性が高い方法です。
総会の有効性に疑義が生じにくいというメリット
ハイブリッド型バーチャル総会(参加型)ですと、運営者側の事情でWeb会議システム等に不具合が生じ、総会を傍聴している組合員に総会の様子(音声や映像)を届けることができないという事態が発生したとしても、当該組合員からは事前に委任状または議決権行使書の提出を受けているため総会の有効性に疑義が生じません。
マンション管理組合におけるWeb総会実施の際の留意点
管理組合においてハイブリッド型バーチャル総会(参加型)を開催する場合には、特に以下の点に留意する必要があります。
細則・規則設定の必要性
国土交通省が作成し多くのマンション管理組合が準拠する標準マンション管理規約においても、また、多くのマンション管理組合の現行の管理規約にも、Web会議システムを利用した総会の具体的な実施方法について明記されていないものと思われます。
規約等による根拠がなくWeb総会を実施することは困難ですので、Web総会の制度内容、実施手続、方法などの運営ルールを規定した「Web総会実施細則」といった規程を新たに制定する必要があります。
この細則制定は、次に述べるWeb総会の仕組みの事前周知にも有効といえるものです。
事前の周知の必要性
上述したとおり、Web会議システムにより総会に参加する組合員には、総会を欠席する組合員と同様、事前に委任状または議決権行使書を提出してもらう必要があります。
この点について各組合員の理解が不十分ですと、組合員がWeb会議システム上で各議案に投票することが可能であると誤解し、委任状や議決権行使書を提出しないままWeb総会に参加してしまい、大切な投票の機会を失ってしまうという問題が発生しかねません。
そこで、管理組合としては、事前にWeb総会の制度概要やWeb会議システムにより参加する組合員は委任状や議決権行使書の事前提出を行っていないと議案への投票が認められない旨の注意書きを記載した説明文書を作成して、総会議案書を組合員に配布する際にこれを同封して周知を図り、さらに、委任状または議決権行使書にもその旨注記して注意を喚起するなどの対応を採ることが望ましいと思われます。
Web総会の制度概要等については、総会前に組合員から質問が寄せられることが予想され、Web総会の制度が定着するまでは質問への回答作業は多少骨の折れるものとなるかもしれません。
もっとも、制度概要の理解はWeb総会実施のため必要不可欠ですので、誤解のないよう十分な説明を行ったうえで制度を運用していく必要があります。