京橋・宝町法律事務所

「,」と「一太郎」

今回は、日々の弁護士の仕事で最も大きなウェイトを占める「文書の作成」(これを弁護士は「書面の起案」と表現したりします)にまつわるお話をしたいと思います。

弁護士に最も必要とされる能力は、「弁が立つこと」でも「理屈をこねること」でもなく、「的確な文書を作成すること」であると私は思っています。いくら弁が立つ人であっても、「文書」を的確にまとめることが出来なければ、はっきり言って仕事にはならないのです。弁護士は、日々、いかに的確な文書をつくるかということに血道を上げ、多くの時間を費やしているといっても過言ではないでしょう。

ところで、ここからは、この「文書の作成」に関する実に形式的な話を二つばかりご紹介したいと思います。

「,」から「、」へ

知っている人は知っているのですが、裁判所は、判決書等の裁判関係文書やその他諸々の文書(司法行政文書等)において、「、」(テン)ではなく「,」(カンマ)を読点として用いていました。これは、ネット上の解説記事によりますと、昭和27年に内閣官房長官名で出された「公用文作成の要領」(昭和27年4月4日付け内閣閣甲第16号内閣官房長官依命通知)に根拠を有するとのことで、裁判所はこれに従い「,」を読点として用いていたとのことのようです(なお、句点は「。」を用います。一般的には、「,」と対をなす句点は「.」(ピリオド)ですが、「,」と「。」の組み合わせを句読点としていました。)。

ところが、本年(2022年)1月7日、文化庁の文化審議会が「公用文作成の考え方」を文科大臣に建議し、これが同月11日の閣議に報告され、これを受けて内閣官房長官から「「公用文作成の考え方」の周知について」(令和4年1月11日内閣文第1号)との通知が出され、昭和27年のルールは廃止されることとなりました。この新たに策定された「公用文作成の考え方」では、横書きの文書では、読点は「、」、句点は「。」を用いることが原則とされています。

ということで、「,」を用いる根拠を失った裁判所はどうするのかが注目されていたところ、令和4年4月12日に言い渡された最高裁判決から「、」が用いられるようになりました。裁判所のウェブサイトを見ても、最近アップされたサイト内の記事等では、「,」ではなく「、」が用いられるようになっております。何事も(?)最高裁の意向に従う裁判所のことですから、おそらく、今後、下級審の判決でも「、」が用いられることとなるでしょう。

ちなみに、裁判所がこのように「,」を使っていたものですから、弁護士も「,」を用いる人が多くいます。かくいう私も、司法修習生のときにこの「,」ルールを知り、専ら「,」を用いておりましたが、2年くらい前から「、」を用いるようになりました。日本語としては読点を「,」とするのは違和感があり、文化庁での議論の状況が段々と明らかになってきたこともあって、先行して「,」を止めた次第です。なお、弊事務所内の弁護士では、現在、「、」派が2名、「,」派が2名と真っ二つに分かれております。

「一太郎」から「Word」へ

これは若干時期に遅れた話となりますが、以前、裁判所や検察庁は、ワープロソフトとして株式会社ジャストシステムの「一太郎」を用いており、この影響もあって、弁護士でも「一太郎」を使って文書を作成する人が多くいました。「一太郎」はさすが日本の会社が開発したソフトであって、日本語での文書作成には最も適したソフトではないかと今でも思っています。

ところが、数年前に、裁判所が「一太郎」の使用をやめ、「Word」を用いるようになりました。また、一般的には、「一太郎」を用いて文書を作成される方は少数で、「Word」を利用されている方が大半だと思います。となると、例えばお客さまとメール等にて文書データのやり取りをするときに、「一太郎」形式でデータをそのまま送ると都合が悪く「Word」形式に変換する必要がある等、何かと面倒が生じていました。

ということで、私は、これも数年前から、長年親しんでいた「一太郎」の使用を止め、「Word」で文書を作成するようになりました。それまで、優秀な「一太郎」での入力、インデント等の性能に慣れてしまっていたため、「Word」に移行したときは、そのいかにもアメリカ的な「荒削り」な性能に辟易しておりましたが、もうすっかり「Word」に慣れてしまいました。なお、弊事務所内の弁護士では、現在、「一太郎」派が2名、「Word」派が2名と、これも真っ二つに分かれてしまっております。

本稿情報

執筆者
梅本 寛人
03-6272-6918