京橋・宝町法律事務所

公益法人の会費をめぐる法律問題

本コラムでは,公益法人(公益社団法人・公益財団法人)における会費をめぐる法律問題について,少しお書きしたいと思います。

公益法人における「会費」は,「会員」(法律上の用語は「社員」)が制度の根幹といえる社団法人において主に問題となるものであり,一般法人法27条は「社員は、定款で定めるところにより、一般社団法人に対し、経費を支払う義務を負う。」と規定し,この「経費」がすなわち「会費」のことです。株式会社の構成員である「株主」については,会社法にこのような条文はなく,この一般法人法27条は社団法人に特有の条文であるといえましょう。そして,多くの社団法人においては,この会費による収入が法人の主要な財源となっており,会費収入の増収,すなわち会員数の拡大(あるいは減少の防止)が大きな課題となっているところです。

他方,公益財団法人においても,色々な名称がありますが「会員」制度を設け,一定の会費を徴収している例は多く存在します。ただ,財団法人における「会費」は,会員が制度の根幹といえる社団法人とは異なり,法律上の扱いは社団法人とは異なる面がありますから,注意が必要です。

社団法人における会費の位置づけ

さきほどお書きしたとおり,公益社団法人(一般社団法人も同様です)における会員(法律上の用語で「社員」)は,「定款で定めるところにより」会費を納める義務があります(一般法人法27条)。この「定款で定めるところにより」とは,「会員は経費を支払う義務があるが詳細について(手続など)は定款で定めるところに委ねる」という意味ではなく,「定款に会費についての定めを設けて初めて会費を支払う義務が発生する」という意味とされます。つまり,定款に会費についての定めがなければ,会費支払い義務は発生しません。なお,定款に,会員の種別とそれに対応した会費の具体的金額まで細かに規定する必要はなく,定款には「会員は別に定めるところにより会費を納める義務を負う」と規定し,具体的金額は定款よりランクが下の「会費規程」等に定めても問題はありません。

財団法人における会費の位置づけ

公益財団法人における「会費」ですが,これは,公益社団法人における「会費」とは異なり,公益認定法上(「税法上」の議論とは必ずしもイコールではないことにはご留意下さい)は基本的には寄附金に該当するものとされます。したがって,「会費」を徴収するに当たり,その目的(会費の使途)を定めていなければ,全額が公益目的事業財産になります(公益認定法第18条第1号)。他方で,一定割合を法人の管理費に充てるなど公益目的事業以外への使途を明確にしていれば,その定めた割合にしたがい,管理費に使用(法人会計に組み入れる)することも可能となります(以上,内閣府「新たな公益法人制度への移行等に関するよくある質問(FAQ)」問Ⅵ-1-①を参照)。

上記の「使途を明確にしていれば」ということの具体的な方法ですが,定款や「会員規程」等の規程において,使途を明確化しておく(例えば「会費は,毎事業年度における額の50%以上を当該年度の公益目的事業に使用する。」としておけば,50%は管理会計に回すことが可能となります)ことが一般的です。

社団法人における「賛助会費」等の扱い

公益社団法人においては,会員(「正会員」という名称が多いでしょうか)以外に,賛助会員,特別会員等会員に種別を設けている例も多いかと思います。この賛助会員や特別会員が支払う「会費」はどのように扱われるのでしょうか。

正会員が支払う会費とは異なり,賛助会員等が支払う会費は,上記の財団法人における「会費」とパラレルに考えれば,認定法上は寄附金と扱うことになるものと考えられます。としますと,賛助会費等の使途について何も規程等がなければ,その全額を公益目的事業会計における収入として組み入れることになります。この場合,収支相償の判断上厳しくなることもあり得ますから,賛助会費等の使途についても,前記の財団法人の場合と同様,明確に規定をしておくことが必要であるといえるでしょう。

会費を支払わない会員の取扱い

会費を支払わない会員に対しては,一定期間を過ぎれば,会員資格を喪失すると規定している法人が圧倒的に多いです。内閣府のモデル定款(「公益認定のための「定款」について」)第10条第1号では,「2年間」支払がなければ会員資格を失うと規定されています。この「会員資格の喪失」は,会員の「除名」(一般法人法30条)とは似て非なるものですのでご留意下さい。支払がない期間を何年間とするかは法律上は特に制限はありませんが,あまりにも短い(例えば,1回でも怠ったら喪失)場合は,不当な制限として無効となる場合もあると思われます。

では,上記のとおり,会費の支払を怠った会員に対して会員資格の喪失というペナルティを科すことのほかに,未納の会費の支払を請求し続けるということは可能でしょうか。もう会員ではなくなったのだから,請求できないのでは?とも考えがちです。しかし,法律上は,すでに発生した未納の会費の支払を請求する権利自体は,当該会員の会員資格の喪失ということとは無関係に,時効消滅するまで存在し続けます。この時効の期間ですが,未納となっている年分の会費の支払期限から5年間と考えられます(会費支払請求権は,民法169条の定期給付債権に該当し,同条により消滅時効期間は5年間であると考えられます。)。ゆえに,未納が発生した分の年会費の支払期限から5年間は,会員資格の喪失に関係なく,会費の支払を請求することは,法律上は可能ということになります。

(文責:梅本 寛人

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