一般社団法人と相続税対策
税制改正の動き
報道によりますと(「日本経済新聞」2017年11月30付朝刊など),政府・与党は,2018年度の税制改正において,相続税の過度な節税防止に乗り出すとのことです。具体的には,近年,一般社団法人を設立して相続税の課税を逃れたり,住宅を贈与して宅地にかかる相続税を減らしたりする節税策が広がっており,このようなスキームへの課税強化を図ることにするようです。
一般社団法人制度の趣旨
近年提唱されていた上記の節税スキームとは,一般社団法人に株式会社のような「株式」という持分の概念がない点に着目し,一般社団法人(特に,役員がすべて親族で占められる「営利型」の一般社団法人)に財産を移してしまえば,その後,子や孫は一般社団法人の役員の地位を承継するのみであり,他方で,一般社団法人が資産を保有し続けるため,相続税は永久に発生しないという一見「夢のような」スキームです。
しかし,これは明らかに一般社団法人制度が想定していなかった利用形態であり,相続税の負担に関して不公平感があることは否めませんから,政府・与党も事態を重視し,今般の税制改正の動きにつながったものと思われます。
そもそも,現行の一般社団法人制度は,2008年の公益法人制度改革により誕生したものです。以前の「公益法人制度」は,主務官庁の許可主義のもと,法人格の取得,公益性の判断,税制上の優遇措置が一体となった制度であったことから,法人の設立が容易ではなく,公益性の判断も主務官庁の裁量が大きく不明確であり,様々な弊害が生じていました。そこで,公益法人を「一般法人」と「公益法人」の2つに分け,法人格の取得と公益性の判断を分離し,一般法人は登記により容易に設立することができる一方,この一般法人が法定の公益認定基準を充たせば,公益法人になることができるものとし,行政の透明かつ公正な関与を実現しつつ民間による公益活動の増進を図ろうとしたものです。このような一般社団法人制度の導入の経緯に照らせば,前記のような相続税対策スキームとして利用されることは想定されていなかったものと言ってよく,早晩,課税強化策が講じられること(課税リスクがあること)は予測できたものともいえます。その意味で,今回の税制改正の動きは,当然のことといえるでしょう。
(文責:梅本 寛人)