公益財団法人の会長(理事長)はどのように選ぶのか
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委」)の森喜朗会長(元首相)が、2月12日、辞任を表明しました。新会長を誰にするのかが大きな問題となっておりますが、ここで改めて、組織委のような公益財団法人において、会長はどのようにして選ばれるのか、法の仕組みを解説したいと思います。
組織委の定款ではどうなっているか
組織委のWebサイトでは、組織委の定款が公表されており、誰でも見ることができます。組織委の定款23条は、組織委に役員を置くことについて、次のように規定しています。
(役員及び会計監査人の設置)
第23条 当法人に、次の役員を置く。
⑴ 理事3名以上35名以内
⑵ 監事1名以上3名以内
2 理事のうち1名を会長とし、会長以外の理事の中から副会長、専務理事、常務理事を置く。
3 前項の会長をもって一般法人法上の代表理事とし、専務理事及び理事会の決議によって業務執行理事として選定された理事をもって一般法人法第197条において準用する一般法人法第91条第1項第2号の業務執行理事とする。
4 当法人に会計監査人を置く。
要するに、組織委には、役員として、理事、監事が置かれ、理事のうち1名が会長となり、さらに、会長以外の理事の中から、副会長、専務理事、常務理事が選ばれます。そして、会長は、一般法人法における「代表理事」となること、つまり、組織委において、法律上、代表者となるのは会長であること、が規定されています。
この定款の規定ぶりは、公益法人の定款では比較的よく見られるポピュラーなものです。
次に、上記の理事、監事、そして会長等がどのようにして選ばれるのかについては、定款24条が規定しています。
(役員及び会計監査人の選任)
第24条 理事、監事及び会計監査人は、評議員会の決議によって選任する。
2 会長、副会長、専務理事及び常務理事は、理事会の決議によって選定する。
要するに、理事、監事は、評議員会の決議によって「選任」され、会長は理事会の決議によって「選定」されます。
この定款の条文は、一般法人法63条(177条により財団法人にも準用)、同法90条3項(197条により財団法人にも準用)に則った規定です。
つまり、「会長はどのように選ばれるのか?」という問いに対する最初の答えとしては、上記の法律及び定款から明らかなとおり「理事の中から、理事会の決議によって選定される」ということになります。さらに、会長となるためには、前提として理事である必要がありますが(理事の中から選定するため)、その理事を選ぶのは評議員会の決議による、ということになります。
理事、代表理事の候補者はどのように選ぶのか
これまでの記載は、理事や会長(代表理事)を選任・選定する権限を有するのは誰かという点につき、法律・定款の該当規定を示したものですが、理事会や評議員会が、いきなり誰か特定の個人を理事あるいは代表理事に選任したり、選定したりするということではありません。選任の決議あるいは選定の決議がなされるに当たっては、その対象となる、理事あるいは代表理事の候補者が用意される必要があります。
理事の候補者については、まずは、理事会がこれを決定する権限を有します(拙著「最新 社団法人・財団法人のガバナンスと実務」213頁以下参照)。理事会としては、各種法規制(資格規制、兼任禁止規制、公益法人の場合は同一親族規制、同一団体規制など)の枠内で、理事としての最適任者を選ぶ(リクルートする)ことになります。この点、近時策定された「公益法人ガバナンス・コード」(2019年9月 公益財団法人公益法人協会)においては、その場合のベストプラクティスとして「理事の選任にあたっては、法令の基準を遵守することは当然のこととして、一定の基準が設けられるべきであり、近親者や同一団体からのみではなく、広く候補者の能力や経験・専門知識、理事会にコミットできる時間や意欲、年齢・地域・性別等のバランスならびに理事の総数等が考慮されるべきである。」(原則5〈推奨される運営実務〉1⑴)とされています。
また、理事会が候補者を選定する際、公益法人の運営実務上は、主に理事以外の者によって構成される「役員候補者選定委員会」といった委員会にこれを諮問し、その委員会が候補者を選んで、理事会に答申するという方法が取られることもあります。上記「公益法人ガバナンス・コード」においても「・・外部委員を含んだ選考委員会(あるいは指名委員会)等を法人内に設けて選出することも、広く候補者を選出するために有効と考えられる。・・」(原則5〈推奨される運営実務〉1⑵)とされ、また、「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」(2019年6月 スポーツ庁)においても「独立した諮問委員会として役員候補者選考委員会を設置し,構成員に有識者を配置すること」(原則2⑷)とされているところです。
以上のような過程を経て、理事の候補者が選ばれた後、理事会が正式に理事候補者を決議し、これを議案として評議員会に提出、評議員会でこれが決議されれば、ようやく、当該理事候補者は理事に就任する、という流れになります。
そして、そのようにして選ばれた理事から構成される理事会は、やはり、同じようなロジック(各種法規制の枠内での代表理事としての最適任者)によって、理事の中から、代表理事(会長、理事長)を選定する、ということになるのです。
突然会長が辞任した場合はどうするか
このように、理事(理事候補者)を選ぶ際も、近年は、ガバナンスを確保する観点から、その過程に透明性が要求され、一定の時間を要するのが通常です。もっとも、代表理事が任期途中で辞任した場合に、常に以上のような過程を経なければならないとすると、かえって、公益法人が行っている事業に大きな支障が生じるということもあり得ますから、そのような場合は、迅速に対応する必要があります。
実務上は、このような場合に備えて、代表理事の代行者(副会長などが就任する例が多いです)を予め置いておくといった例もありますが、臨時の理事会を招集して、速やかに後任の代表理事を選定するということでももちろん構いません。しかし、辞任する会長が一方的に後任の代表理事候補者を指名し、理事会での議論を省略するといった手法は厳に避けるべきでしょう。また、今回の組織委の事例では、評議員が後任の代表理事として一旦指名されたとのことでしたが、本来、評議員と理事(代表理事)の兼任は法律上禁止されており(法人法173条2項)、また、評議員は、理事に対する監視・監督を行う職責を有する者であったことからすると(ニューズレター「「評議員会」とは何か」参照)、ガバナンスの観点からは好ましいものとはいえません。
今回の事例は、公益財団法人のガバナンスという観点からは非常に興味深い事例であり、今後の組織委の対応が大いに注目されるところです。
(文責:梅本 寛人)