京橋・宝町法律事務所

社員総会資料の電子提供制度

令和元年12月4日、国会において「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が成立し、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法人法」)もその一部が改正されました(この改正の概要についてはニュースレター「令和元年改正一般法人法の内容について」をご覧ください)。

上記の法人法改正により、「社員総会資料の電子提供制度」が新設され、令和4年9月1日から施行されています(令和元年改正の大半は令和3年3月1日から施行されていますが、改正事項のうち、この電子提供制度と従たる事務所の登記の廃止は、令和4年9月1日からの施行となりました)。

本稿では、社員総会資料の電子提供制度について説明したいと思います。

電子提供制度とは?

電子提供制度とは、一般・公益社団法人の社員総会における資料(社員総会参考書類等)の内容に関する情報を法人のウェブサイトに掲載し、社員(法人によっては「正会員」等の名称かと思います)に対し、そのウェブサイトのアドレス等を書面(つまり紙)により通知することによって、社員の個別の承諾を得ることなく、社員総会資料を提供することができるという制度です(改正法人法47条の2以下)。

従来から、社員の個別の承諾があれば、承諾した社員に対しては、招集通知や社員総会資料を電磁的方法(インターネットを利用する方法等)により提供することが可能でした(法人法39条3項、41条2項、42条2項、3項等)。もっとも、社員の個別の承諾を得なくとも、本制度を利用すれば、社員総会資料(なお、招集通知は本制度によっても電子提供はできず、紙で送る必要があります)を電子的に提供することが可能となり、特に社員数の多い法人においては、紙の資料の印刷代や郵送代のコストダウン、発送事務の省略等につながるなど相応のメリットがあるものと思われます。

なお、株式会社の株主総会においても電子提供制度が同じく令和4年9月1日からスタートしており、株式会社のうち振替株式の発行会社(上場会社)においては、電子提供制度の利用が義務付けられることとなりましたが、一般・公益社団法人の社員総会においては、電子提供制度の導入は義務付けられておらず、各法人の判断により導入することとなります。

電子提供制度を導入するための手続

電子提供制度を導入するためには、まず、定款変更を行う必要があり、登記も必要となります。

定款変更(法人法47条の2)

電子提供制度を導入するためには、「電子提供措置をとる旨の定め」を定款に設ける必要があり、定款変更が必要となります(法人法47条の2)。

定款をどのような文言にすべきかですが、内閣府のモデル定款(「公益認定のための「定款」について」(令和4年9月改訂版))では次のような文言となっており、これを参考にされると良いでしょう。

(電子提供措置)
第○条 この法人は、社員総会の招集に際し、社員総会参考書類等の内容である情報について、電子提供措置をとる。

もっとも、電子提供制度を導入しようとする法人というのは、社員数が多数にのぼる法人であると考えられるところ、社員数が多い法人における定款変更は極めてハードルが高いので(総社員の3分の2以上の賛成が必要。法人法49条2項4号)、実際に可決の見込みがあるのかという点は慎重な見極めが必要となるでしょう(ここで、おそらく後記の「デジタルデバイド」問題がネックになってしまうのではないかと私は想像します)。

登記手続(法人法303条、301条2項4号の2)

上記の定款変更が完了した場合は、登記の変更も行う必要があります(法人法303条、301条2項4号の2)。

電子提供措置の実施

電子提供措置の実施方法

定款変更と登記が完了した後は、その後に開催される社員総会から、電子提供制度を利用して社員総会資料を提供する必要があります(電子提供制度を利用すると登記しているにもかかわらず、これを利用しないで書面で社員総会資料を提供することはできません(法人法47条の3第1項))。

電子提供制度を採用した場合の流れとしては、まず、社員総会資料の電子提供措置をとることとなります(法人法47条の3第1項)。電子提供措置とは、法人が、そのウェブサイトに社員総会参考書類等の内容を掲載し、社員が閲覧することができる状態にすることをいいます(法人法施行規則7条の2)。電子提供措置は、社員総会の日の3週間前または招集通知の発送日のいずれか早い日から社員総会の日後3か月を経過する日までの間、継続して行わなければなりません(法人法47条の3第1項)。具体的な方法としては、法人のウェブサイトに社員総会に関する特設ページを設け、そこに、PDF等のファイルで、社員総会参考書類、事業報告書、決算書等の資料を載せるということになろうかと思います。なぜPDFにする必要があるかというと、資料を印刷可能なものにしなければならないとされているためです(法人法施行規則7条の2、92条1項1号ロ、同条2項)。

電子提供措置により提供される事項

電子提供措置によって提供される事項は以下のとおりです(法人法47条の3第1項各号)。

① 社員総会の招集に際しての決定事項(法人法38条1項各号に掲げる事項)
② 社員総会参考書類に記載すべき事項(書面投票・電子投票を行う場合)
③ 議決権行使書面に記載すべき事項(書面投票を行う場合)
④ 社員提案の議案の要領(社員にからの議案の要領の通知請求があった場合)
⑤ 計算書類(貸借対照表・正味財産増減計算書)及び事業報告の記載事項(理事会設置一般社団法人の場合。 ※)
⑥ ①から⑤の電子提供措置を修正したときは、その旨及び修正前の事項

なお、議決権行使書面を紙で送付する場合は、上記③の事項につき電子提供措置をとる必要はありません(法人法47条の3第2項)

(※)公益社団法人においては、定時社員総会において、計算書類の承認を得る必要があり(法人法126条2項)、さらに、毎事業年度経過後3か月以内に主たる事務所に備え置かなければならない書類(備置書類の内容は公益法人認定法21条2項各号参照)のうち、財産目録(同21条2項1号)及びキャッシュ・フロー計算書(同法21条2項4号、同法施行規則28条1項1号)についても定時社員総会での承認が必要です(同法施行規則33条1項)。この承認手続については、法人法124条から127条まで及び法人法施行規則35条から48条までの規定が準用されます(同法施行規則33条2項)。すなわち、財産目録とキャッシュ・フロー計算書は、定時社員総会の招集通知に際して社員に提供されることになりますので(法人法125条の準用)、それらの記載事項についても電子提供措置の対象になるのではないかと考えられるところです(法人法47条の3第1項5号の類推適用というべきでしょうか。立法上の手当が望まれるところです)。

電子提供措置の中断

電子提供措置は、前記のとおり「継続して」実施される必要がありますが、サーバがダウンした等の理由により、電子提供措置が中断した(社員がウェブサイトにアクセスできなくなった場合等)場合においても、以下の要件をすべて充たしたときは、電子提供措置の効力に影響を及ぼさないとされています(法人法47条の6)。

  • 電子提供措置の中断が生ずることにつき法人が善意でかつ重大な過失がないこと又は法人に正当な事由があること
  • 電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の10分の1を超えないこと。
  • 電子提供措置開始日から社員総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは、当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の10分の1を超えないこと。
  • 法人が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容について当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと。

社員総会の招集通知に関する特則(法人法47条の4)

電子提供制度を利用している場合においても、招集通知は紙で送付する必要があります(さて、法人の皆様には「招集通知」と「社員総会参考書類」の違い等がよく分からないという方も多いのではないかと想像します。一般・公益社団法人の実務上「招集通知」と「社員総会参考書類」との違いを意識して社員に送付する資料が作られている例は、私の経験上はとても少なく、招集通知と社員総会参考書類と各議案についての説明が渾然一体となった「議案書」等の資料が作られている例が多い印象です。しかし、この「議案書」形式のままでは、電子提供制度を利用するのは事実上困難であると思われます。電子提供制度を利用する法人は、これまでの社員に提供する議案書、資料の在り方を見直す必要があるのではないかと考えられます)。

紙で送る招集通知の発送期限は、社員総会の日の2週間前までとされています(法人法47条の4第1項)。もっとも、電子提供措置を利用する場合における招集通知の記載内容は以下を記載すれば足ります(法人法47条の4第2項、法人法施行規則7条の3)。

  • 社員総会の日時及び場所
  • 社員総会の目的事項
  • 書面による議決権行使を認めるときはその旨
  • 電磁的方法による議決権行使を認めるときはその旨
  • 電子提供措置を利用している旨
  • 電子提供措置によって情報が掲載されているウェブサイトのURL等

社員の書面交付請求(法人法47条の5)

電子提供制度を採用してる法人の社員は、法人に対し、電子提供措置事項を記載した書面の交付を請求することができ、法人は、これに応じなければなりません(法人法47条の5第1項、第2項)。

これは、インターネットを利用することが困難な社員が存在するという問題(いわゆるデジタルデバイド)に対応するため、社員に書面交付請求権が認められたものです。一般・公益社団法人の社員には、高齢者等が比較的多いことがよくあるため、この書面交付請求が活用される場面が多くなるのではないかと想像されます。

具体的な請求の方法等については、法定はされていませんが、実務上は、法人側において、書面交付請求ができることと請求書の書式等を、事前に案内しておくことが必要でしょう。

なお、書面交付請求がいつまで可能かという問題がありますが、先に述べた招集通知(紙のもの)が社員に発送されるまでに書面交付請求をしておくことが必要であるとされています(法人法47条の5第2項参照)。招集通知を送った後に、それを見た社員から、「ネットで見ることが難しいので、紙で欲しい」と請求されても、法人は、法律上は、これを拒絶することが可能です(ただし、任意にこれに応じて紙で送ることは可能です。もっとも、ある社員には送り、ある社員には送らないという不平等が生じては問題がありますので、同一の社員総会においては取扱いを事前に統一しておくべきしょう)。

社団法人の社員総会において電子提供制度は普及するのか?

以上、新設された社員総会資料の電子提供制度について説明を行いました。さて、この制度ですが、社団法人の社員総会において普及するのかという点について私なりの感想を述べますと、先に述べました、定款変更のハードルの高さ、デジタルデバイド問題、そして、社団法人の社員総会実務における根本的な問題である「招集通知の体系が法令と整合していない問題」といった点がネックとなり、意外と普及はしないのではないかと思っています。しかし、特に社員数の多い社団法人においては、コストダウンと事務の省略化に大いにつながるという捨てがたいメリットがあるところです。制度の導入を検討されている法人におかれては、上記のとおり、結構多岐にわたる法的課題、実務上の課題を解決する必要がありますので、その際は弊所にもご相談ください。

本稿情報

執筆者
梅本 寛人
関連分野
公益法人・非営利法人
03-6272-6918