学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか②-評議員の資格等
前稿(学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか①ー評議員の選任等)に引き続き、評議員の資格等について見ていきたいと思います(なお、以下、意見にわたる部分は、筆者の全くの私見でありますので、ご留意ください。)。
評議員の資格
(評議員の資格及び構成)
第62条 第31条第1項各号に掲げる者は、評議員となることができない。
2 被解任役員は、解任に係る学校法人の評議員となることができない。
3 評議員には、次に掲げる者(第2号に掲げる者にあつては、当該者がある場合に限る。)が含まれなければならない。
① 当該学校法人の職員
② 当該学校法人の設置する私立学校を卒業した者で年齢25年以上のもの(前号に掲げる者を除く。)
4 評議員は、他の2人以上の評議員と特別利害関係を有するものであつてはならない。
5 評議員の構成は、次の各号のいずれにも該当するものでなければならない。
① 第3項第1号に掲げる者である評議員の数が評議員の総数の3分の1を超えないこと。
② 理事又は理事会が評議員を選任する場合において、当該評議員の数が評議員の総数の2分の1を超えないこと。
③ 役員又は他の評議員のいずれかと特別利害関係を有する者並びに子法人役員及び子法人に使用される者である評議員の数の合計が評議員の総数の6分の1を超えないこと。
文部科学省が公表している資料「私立学校法の改正について」では、ポイントとして、以下のように記されています。
① 評議員の欠格事由は、理事の欠格事由と同様。
② 解任勧告等により役員を解任された者は、2年間、同じ学校法人の評議員になることができない。
③ 評議員には、職員、25歳以上の卒業生をそれぞれ1人以上含まなければならない。
④ 評議員は、他の2人以上の評議員と特別利害関係を有するものであってはならない。
⑤ 職員である評議員は、評議員の総数の1/3を超えてはならない。
⑥ 理事、理事会が選任する評議員は、評議員の総数の1/2を超えてはならない。
⑦ 役員や他の評議員と特別利害関係を有する者、子法人役員、子法人に使用される者である評議員は、評議員の総数の1/6を超えてはならない。
評議員の欠格事由
まず、評議員の欠格事由(これに該当すると評議員となることができない事由)は、理事と同様とされてます。理事の欠格事由は、以下のとおりです。
(理事の資格及び構成)
第31条 次に掲げる者は、理事となることができない。
① 法人
② 心身の故障のため職務の適正な執行ができない者として文部科学省令で定めるもの
③ 学校教育法第9条各号のいずれかに該当する者
④ この法律の規定に違反し、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなつた日から2年を経過しない者
⑤ 学校法人が第135条第1項の規定による所轄庁の解散命令により解散を命ぜられた場合において、その解散の日前 30日以内に当該学校法人の役員であつた者でその解散の日から2年を経過しないもの
被解任役員の規制
次に、「被解任役員」は、評議員になることはできないとされています。「被解任役員」の意味は、改正法31条2項に規定されています。すなわち、改正私学法33条3項(理事解任の訴え)若しくは同法48条2項(監事解任の訴え)の訴えに基づく確定判決によって学校法人の役員を解任され、又は同法133条10項の規定による勧告(所轄庁による解任勧告)を受けて学校法人の役員を解任され、解任の日から2年を経過しない者を「被解任役員」といいます。
評議員に含まれなければならない者-職員と卒業生
評議員には、学校法人の職員と25歳以上の卒業生が含まれなければならないとされます。現行私学法44条1項1号(職員)と2号(卒業生)を踏襲するものといえますが、「1号評議員」「2号評議員」という枠組みではなく、職員や卒業生が「含まれ」ている必要があるという規定ぶりに変わることになります。
なお、「学校法人ガバナンス改革会議」が令和3年12月に発表した報告書(「学校法人ガバナンスの抜本的改革と強化の具体策」)においては、評議員と職員との兼任を認めないとの方向性が打ち出されていましたが、改正私学法においては、上記のとおり、職員が「含まれなければならない」とされており、同会議の方針は採用されていません。
他の「特別利害関係」のある評議員に関する規制
次に、評議員は、他の2人以上の評議員と特別利害関係を有するものであってはならない、とされます。「特別利害関係」とは、「一方の者が他方の者の配偶者又は3親等以内の親族である関係その他特別な利害関係として文部科学省令で定めるもの」と定義されています(改正法31条6項)。典型的には、例えば、自分(夫)が評議員で、その配偶者(妻)も評議員で、子(1親等の親族)も評議員というケースは、自分からみて2人の特別利害関係を有する評議員が存在するので、NGとなります。
ここで「特別利害関係」という言葉が使用されていますが、これは、他の法制(会社法、一般法人法、社会福祉法等)では使用されていない言葉です。似た用語として「特別の利害関係」という言い方をする条文はありますが(会社法369条2項、一般法人法95条2項等)、これは親族等といった身分関係から来る利害関係ではなく、ある事項について利害関係があり理事会等の議決に加わることができない者を指す用語となっています。そして「特別の利害関係」という用語は、改正私学法でも使用されています(改正私学法42条3項、76条4項)。他方で、「特別利害関係」という用語は、改正私学法で初めて用いられている言葉ではないかと思われます。ちなみに、この改正私学法の「特別利害関係」と同種の意味内容をもつものとして、他の法制では、「特別の関係」(公益法人認定法5条10号)、「特殊の関係」(社会福祉法40条4項、5項等)といった用語が使用されています。「の」が入るかどうかで、結構違う意味になりますので、注意が必要でしょう。
なお、この「特別利害関係」規制については、経過措置が設けられており、大臣所轄学校法人等は令和8年度の定時評議員会まで、それ以外の法人は令和9年度の定時評議員会まで、「2人以上」を「3人以上」とすることが許されます(改正私学法附則2条2項。さきほどの、夫と妻と子の3名が評議員になるケースは、夫から見て他の特別利害関係を有する評議員は「2人」であり「3人以上」とはならないので、セーフとなります。)。
評議員の構成
評議員の構成(評議員全体を見た場合の要件)は、以下の3つをすべて充たすものでなければなりません。
① 職員である評議員の数が評議員の総数の3分の1を超えないこと。
② 理事又は理事会が評議員を選任する場合において、当該評議員の数が評議員の総数の2分の1を超えないこと。
③ 役員又は他の評議員のいずれかと特別利害関係を有する者並びに子法人役員及び子法人に使用される者である評議員の数の合計が評議員の総数の6分の1を超えないこと。
③が分かりにくいかと思いますが、例えば、評議員の総数が12名である場合、
となります。
なお、③の規制についても経過措置が設けられており、大臣所轄学校法人等は令和8年度の定時評議員会まで、それ以外の法人は令和9年度の定時評議員会まで、「6分の1を超えない」ではなく「3分の1を超えない」とすることが許されます(改正私学法附則2条2項)。
基本的に、評議員が他人ばかりで構成されているという場合は、あまり気にする必要のない規制といえますが、学校の創業者一族や役員等の関係者で評議員も固めたい(そのような経緯、背景のある学校法人)においては、慎重に評議員を選任することが重要となります。また、評議員の総数が少数の場合も、少しでも身内等が入れば容易に1/6という割合を突破してしまうリスクがあり、注意が必要といえるでしょう。
(つづく)
本稿情報
- 執筆者
- 梅本 寛人
- 関連分野
- 公益法人・非営利法人