公益法人・一般法人の「常勤役員」と「非常勤役員」
公益法人・一般法人の実務上、役員報酬の在り方等を検討する際、「常勤役員」「非常勤役員」という言葉に接することがあります。例えば、役員報酬に関して、このような定款の規定を設けている公益法人・一般法人をよく見かけます(内閣府「公益認定のための「定款」について」(令和4年9月版)15頁、45頁参照)。
第○条 理事及び監事は、無報酬とする。ただし、常勤の理事及び監事に対しては、社員総会(評議員会)において定める総額の範囲内で、社員総会(評議員会)において別に定める報酬等の支給の基準に従って算定した額を報酬等として支給することができる。
つまり、「常勤」の理事・監事は報酬が支給されるが、そうではない、すなわち「非常勤」の理事・監事は無報酬であると上記の定款規定は謳っております。では、この「常勤」「非常勤」とは具体的にはどのような意味なのか、今回はこの点を考えてみたいと思います。
法令上の定義
「常勤」「非常勤」という言葉の定義規定は、公益法人・一般法人の関係法令には存在しません。ゆえに、「常勤」「非常勤」の具体的な意味は、解釈に委ねられています。理事・監事に報酬を出せるのか出せないのか、という結構重要な局面であるにもかかわらず、法令上の定義規定が存在しないのです。ということで、言葉の具体的な意味を合理的に解釈する必要があります。
どのように解釈すべきか
このように言葉の意味を解釈する必要が生じた場合は、まずは国語的な意味を考えてみることが出発点です。一般的に、「常勤」とは、「臨時ではなく、原則として毎日一定の時間、勤務すること」といった意味を有するとされます。つまり「毎日働いている」(もちろん休日はあります)=「常勤」という意味であり、例えば、月曜日から金曜日まで、法人の事務局に毎日9時から17時まで勤務している理事が「常勤理事」に該当することは明らかであるといえるでしょう。
では、毎日は来ないけど、週に3~4日程度勤務する場合はどうでしょうか?あるいは、週に1~2日程度しか勤務しない場合はどうでしょうか?
この点、手掛かりとなる記載が内閣府が発行している資料の中にあります。すなわち、内閣府/都道府県『「申請の手引き 公益認定編」(一般法人が公益認定を申請する場合)』の16頁では「最低でも週3日以上出勤する者は「常勤」、それ未満の者は「非常勤」として記載してください」と記載されています(内閣府/都道府県『「定期提出書類の手引き 公益法人編」(事業計画書、事業報告等を提出する場合)』の13頁にも同趣旨の記載があります)。
以上の記載からは、内閣府は、常勤か非常勤かを「週3日以上勤務しているか否か」という基準により区別していることがうかがえます。
他方、今般大改正がなされた私立学校法においては、「大臣所轄学校法人等のうちその事業の規模又は事業を行う区域が特に大きいものとして政令で定める基準に該当するものは、寄附行為をもって定めるところにより、常勤の監事を定めなければならない。」との規定が新設されました(同法145条1項)。ここでいう「常勤」の意味について、文科省は『「常勤」とは、「定められた勤務時間中常に勤務する態勢にあり、かつ、職務専念義務があるもの」と解しており、日常的に監査業務等を行う体制がとられていればよく、勤務時間の長さにより判断されるものではありません。』と解説しています(文科省「私立学校法の改正について」(令和5年12月12日更新)・227頁)。この解説文は少々分かりにくいのですが、文科省は、あくまで「常勤監事」に関しての言及ではありますが、週○日とか何時間という物理的な指標ではなく、日常的な監査体制がとられているか否かという監事の機能的な面から、「常勤」の意味を捉えていることがうかがえます。
また、公益法人・一般法人において制定されている「役員報酬規程」の文例として、常勤役員の定義につき「常勤役員とは、役員のうち、当法人を主たる勤務場所とする者をいう。」というものもよく見かけます。この例では、法人が主たる勤務場所か否か、他に勤務している場所があってもそちらはサブで法人の役員がメインならば「常勤」である、という解釈がとられていることが分かります。
このように、色々な解釈がなされているところであり、具体的なケースで、当該理事・監事が果たして「常勤」なのか「非常勤」なのか、判断に迷うことが少なくないのではないかと想像されるところです。
さしあたっては、前記内閣府の解釈に従い、「週3日以上勤務する」役員は「常勤」であり(なお、通常、週3日以上勤務しているような者は、「法人を主たる勤務場所とする者」にも該当するでしょう)、それ以外の役員は「非常勤」と解することが無難ではないかと思われます。前記の「週1~2日程度しか出勤しない役員」は、非常勤役員に該当するのではないかと考えます。
本稿情報
- 執筆者
- 梅本 寛人
- 関連分野
- 公益法人・非営利法人